今回も、パンの国際コンクール〈第5回モンディアルデュパン2015〉日本代表として出場されるなど、日々研鑽を深めておられるブーランジェリーフリアンド 谷口佳典シェフにお話を伺っています。専門学校や家庭製パン教室でも講師を務められている経験から「家庭用のオーブンで焼くのにあたって、いろんなことに気をつけてあげられればいいのでは。」とアドバイスをくださっています。
▼さんだ
谷口シェフならではのお話、改めて気付くことがたくさんあります。国内外問わず様々な環境でパンを焼かれていますが、思うように焼き色がつかない時、どのように対処されていますか。
▼谷口シェフ
早めに温度を上げますね。だいたい、どのパンがどれくらいで焼き色がつき始めるかを把握していますので、扉は開けずに焼き色を確認して温度を調整します。
▼さんだ
シェフの経験値があってこそですね。私も感覚で見ているような気はしますが…。
▼谷口シェフ
パンの配合はもちろん、分割量によっても違います。たとえばシンプルな丸パンなら、窯伸びのボリュームが最大になるのが4分半程です。バゲットくらいになると7分少々、型に入っているかどうかでもその時間が変わりますよ。このときにパンの状態を見て判断できれば、焼き足すことなく合わせられます。
講習会をすると「何℃で焼きますか」という質問を必ず受けますが、パンは温度ではなく時間で焼くものなので、“焼く時間で温度を探す”ようにしてくださいね 。
▼さんだ
では、どうしたらお店に並んでいるようなパンの焼き加減に近付けられるでしょうか。
▼谷口シェフ
残念ながら…基本的には無理ですね。最初に話したように“システムが違う”からです。リーンな配合もリッチな配合も。ですが近付けることはできます。特に家庭製パン教室で焼く時は、「“窯伸び”をいかにさせるか」を意識しています。
例えば、菓子パン生地であれば“卵の二度塗り”ですね。窯の中で膨らむ(窯伸び)時間のゆとりができるように、早く焼き固まらないようにするためです。‥という流れで、生地を乾燥させないのが窯伸びのポイントになるのがわかりますか?(卵の二度塗りは焼成直前で、一度目を塗った直後に二度目を塗ってください。)
▼さんだ
“窯伸び”というキーワードが出てきました。パンが焼成中に膨らむこと、と理解している方は多いと思いますが、仕組みと、家庭で工夫できるポイントなどを聞かせてください。
▼谷口シェフ
パン生地は酵母の活性によって、60℃辺りまで発酵します。60℃を超えて酵母が死滅するまでの間は窯の中でも発酵している時間があり、生地が伸びるというわけです。
先程の話とも繋がりますが、スチーム(蒸気)を入れる理由はわかりますよね?パンの表面の水分が蒸発して表面が固まったら伸びなくなるので、表面が乾くのを防ぐためにスチームを入れます。霧吹きでパンに霧状の水をかける、(パンの種類にもよりますが)オリーブオイルや太白胡麻油を塗るのもいいと思います。
煉瓦や石を入れる、銅板を何枚も重ねて使用するなど、どちらも充分に熱して蓄熱しておくことは重要ですよ。
▼さんだ
“焼く”にポイントを絞ってお話をしていただきましたが、最後に伺わせてください。おいしいパンを焼くのに大事なのは何でしょうか。
▼谷口シェフ
「バランス」だと思っています。焼くだけのバランスではなく全ての工程のバランスです。一般的に意識されがちなのはミキシングやパンチのような加工硬化の部分ですけど、フロアタイムやホイロなどの緩ませ方のバランスも取れていないと意味がないんです。どの工程が欠けても、おいしいパンは焼けないでしょう。
ただ、『パンの良し悪しじゃなくて個性』だと、いろいろなパンを見てきて感じるようになりました。作り手がどんなパンを作りたいと思って焼いているかが、店の個性として表現されているはず。その店のパンが好きで、買いに来られるお客さんがいてくださることが大切ですから。
どの工程にもコツやテクニックは必要だけれどバランスが大事。経験の積み重ねがあってこそですね。谷口シェフの最後の言葉も深く印象に残りました。貴重なお話をいただきありがとうございました。
TEXT : Yumiko Sanda / Photo : Boulangerie Friande
店名 | ブーランジェリー フリアンド |
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電話番号 | 0798-23-0101 |
営業時間 | 7:00~19:00 |
定休日 | 定休日:無休(年末年始とお盆は臨時休業) |
住所 | 兵庫県西宮市若松町3-1 阪急夙川駅より徒歩5分 JRさくら夙川駅より徒歩5分 |
日々、教室を運営しながら自らも学び、パンに触れる暮らしの中での気づきや、パンを楽しむ皆さんへ伝えたい事を綴っていただきます。アトリエへちょっと立ち寄るような気持ちで、ご覧くださいね。