理論的、かつわかりやすい説明で人気の高いパン講師、堀田誠さん。
2月6日、正栄食品工業で行われた「北海道産小麦粉 製パン技術講習会」(江別製粉主催)に登壇した。
作ったのは「明治ブルガリアヨーグルト」を使用した「ヨーグルト酵母のブリオッシュ」。
堀田さんが披露してくれた、パン職人の極みの技「種起こし」「ミキシング」「成形」の3つを紹介したい。
乳酸菌の芳醇な香りを、簡単に再現しよう
このパンのイメージは、イタリアの発酵菓子「パネトーネ」。
ヨーグルトで起こした種を使うことで、パネトーネ種の特徴である乳酸菌の芳醇な香りを、簡単に再現しようというのだ。
種を起こすときの疑問。何が原因だっけ?
「ヨーグルトに北海道産の小麦粉と水を合わせてルヴァンを作ります。
種を起こすとき、『好みのふくらみ方をしない』とか『くさいな』って思うケース多いですよね。
それって、なにが原因だっけ?
そもそも、ルヴァンってなんで起こしたいんだっけ?
乳酸菌を増やしながら、麦にくっついている酵母も増やしていきたいんだよね。
穀物にくっついている乳酸菌を増やせば、穀物のおいしさを引き出してくれるはず。
だけど、酪酸菌など他の雑菌が増えるとくさみがでますよ。
じゃあ、どうすればいいですか?
最初からph(酸性・アルカリ性の度合いを表す数値。pH7を中性とし、7未満を酸性、7より大きければアルカリ性)を下げれば、酸性に強い微生物だけ、生き残ってくれます」
種起こしで増やしたい菌=酵母と乳酸菌。
その2つは、酸性の環境に強い特徴を持つ。
だから、乳酸菌がたくさん住んでいる酸性の食品であるヨーグルトを種起こしに使えば、酵母と乳酸菌以外の雑菌の侵入を防ぐことができるというわけ。
ヨーグルト酵母の作り方 お手入れのイメージはぬか床
全粒粉100に対し、水100、ヨーグルト100、それに餌としてはちみつ10を加えてこねあげたものを、30~35℃に24~48時間置き、その間12時間おきに1回かきまぜる。
種起こしのとき、雑菌が侵入し、酸味や雑味が出るのは、かきまぜ方に原因があると言う。
「かきまぜすぎなんじゃないかな?
半日に1度でOK。
酵母も乳酸菌も、酸素を使わなくても発酵できる『アルコール発酵』を行います。
酸素がなくても元気になってくれる」
「イメージはぬか床のお手入れの仕方。
種の表面は酸素が豊富なので、雑菌がそこから繁殖しやすい。
表面にあったものを内側に入れてあげたい」
表面の雑菌が増える前に、空気のない種の中に入れ込み、滅菌してしまうのだ。
このようにして起こした種50に対し、全粒粉100、水100、ヨーグルト100、はちみつ10を加えて種継ぎ。
30~35℃に5時間おけば完成。
「冷蔵庫に入れれば、1週間問題なく使えます。
すっぱいわけではないが、phとしては十分に酸性。
ドイツパンみたいな感覚。
ゆっくり食べる食事パンなんかに入れてもらえるとありがたいです」
安定させるまで種継ぎを3、4度と繰り返さないといけない方法に比べ、手間が少なく、できすぎてしまった種を廃棄することもほとんどない。家庭で行うのに向いている方法だ。
ミキシング開始
30分に及ぶ長いミキシングで、グルテンはしっかりと形成させつつも、なめらかででやわらかな生地を目指す。
粉は、強めのミキシングにも耐えられる「ゆめちからブレンド」(江別製粉)を使用。
油脂はシュガーバター法で入れる。
乳化させるために、あらかじめ砂糖を混ぜたバターを投入するテクニック。
「お菓子屋さん、パウンドケーキ作る時、砂糖はバターに混ぜて卵に溶かさないでしょ。バターの中で砂糖が卵の中の水をつかまえて乳化させるから、砂糖が分離しない。これを利用して生地とやさしくバターを乳化させるのが目的。
これを卵ではなく、バターで行います。
生地となじみがいいので、2次発酵の温度を上げても油が出てこないし、軽さも出ます」
発酵させるときにゆっくりしかゆるんでこないような生地を作りたい。
グルテンの縮む力をしっかりとコントロールします。
生地を触ったとき指先に感じるなめらかさで、口溶けの良し悪しはわかります」
シュガーバターを3回に分けて投入。
その際、生地の状態を見て、巧みにミキサーの速度を変えていく。
「つるつるからベタベタに変わったら、油脂が入ったよねと判断して、1速から2速へスピードアップさせます。
すごく伸びる生地なら3速に入れます」
丸めでもなく、折るだけでもない、とろとろの生地の成形
こねあがりの生地。
一次発酵後の生地。これを一晩冷蔵発酵させる。
パネトーネといえば、縦に伸びた気泡が特徴。
ところが、できあがったのは、だらっと流れるようなとろとろの生地だった。
これを、職人技の成形によって、縦伸びするよう導いていくのだ。
ただの丸めでもなく、ただ折るだけでもない。
気泡をつぶさないようにしながら、二次発酵でゆるまないように締める。
と同時に、窯の中で生地が縦に伸びやすいように、折り重ねる。
「気泡はつぶさないように。
でもしっかり締めているので、たくさん2次発酵できます。
これをパネトーネカップに入れて、ふくらませていく
窯の中で2段階ロケットのように伸びます
螺旋階段のように生地を折りたたんでいく」
「生地をひし形になるように置いてください。
僕から見て12時のところを中心に向かって折ります。
そこから時計まわりに、45度ずつずらしながら合計6回折りたたみます。
2回転目、今度は反対方向に45度ずつずらしながら5回折る。
すると、最初の位置まで戻ります。
いっさい触ってない場所がありますよね。
ここを、最後に折った部分を指で押さえながら、中心を包み込むようにして生地をとめます」
クープは、はさみで。
薄皮一枚を切るように。
完成
見事に縦伸びしていることが、断面からわかる。
極みの技が、堀田さんによって、わかりやすく解き明かされていく講習会。
パンは追いかければ追いかけるほど、どんどん深くなっていくと、あらためて実感した。
パンライター。パンの研究所「パンラボ」主宰。ブレッドギーク(パンおたく)。パンを食べまくり、パンを書きまくる。日々更新されるブログ・twitterでは、誌面で紹介しきれないパンの情報を掲載中。主な著者に『パンラボ』(白夜書房)、『パンの雑誌』(ガイドワークス)などがある。
【BLOG】http://panlabo.jugem.jp/
【Twitter】@ikedahiloaki