「TOLO PAN TOKYO」の田中真司シェフによる「コンプレ食パン」の作り方をレポートする。
3月3日、東京・竹橋のHappy Cookingで行われた「パン作りの概念を打ち破る ボウル1つで完結! 捏ねないパンの秘訣」と題されたレッスン。
次々と斬新な製法を生みだす田中シェフ。
こねない簡単なレシピであることはもちろん、家庭用のオーブンでも、パン屋さんで売っているような仕上がりになるよう、さまざまな秘策を繰りだす。
まず生地をこねる
その前に、下準備から。
コンプレの香りを引き出すための秘策。
全粒粉(福岡県・田中製粉)をふるって、ふるいに残った大きな粒だけを取り出し、フライパンで炒る。
残りは炒らずに、そのまま使う。
「ぜんぶ炒ってしまうと、酵素が働かなくなってしまい、もったいないです。
酵素が働くことで、発酵で旨味が出てきます」
香ばしさはアップさせ、発酵の働きは止めないという、画期的ロースト法だ。
「焦げやすいので、弱火でじっくり炒ってください。
煙が上がると、完成のタイミング。
焦げ臭がしたらダメです。
香りを嗅ぎながら。
好みのところで止めてもらって。
冷めたら、炒らなかった分と合わせて全粒粉として使います」
使用する粉は、カメリア(日清製粉)80%に、前述した全粒粉12%と、ライ麦。
「先にぜんぶビニール袋に入れてシェイクしてください。
粒の大きさがそれぞれ異なるので、よく混ざってないと、水の吸い方がまちまちになります」
塩と砂糖を小麦粉といっしょではなく、水のほうに溶いておくのもポイント。
「液糖になるので、生地がしっとりになります。
はちみつを入れたときと同じ効果です」
「材料をフードプロセッサーに入れます。
まず粉を半量ぐらい入れ、そこに先にペースト状にしておいたバターを入れ、残りの小麦粉をかぶせる。
イーストに触れてしまうと、オイルコーティングした感じになり、材料と混ざりにくくなるからです」
混ぜる時間はほんの一瞬。
材料が混ざれば完了。
こねあがった生地。
「こねあげ温度は24~25℃。
今回のように当日すぐ使う場合は1時間~1時間半あれば発酵完了です。
冷蔵発酵のときは19~22℃でこねあげて、0℃で寝かせます」
「これぐらい混ざれば、あとはバンジュウなどにおいてください。
10分間空気に触れさせて、イーストを活性させます。
平べったくすることで、生地の外側と内側が均等に温度が上がっていきます」
10分後にパンチを行う。
「(こねる工程で)グルテンは出てないので、パンチでグルテンを作ります」
3つ折りを3回。
それでじゅうぶん張りが出ます」
パンチが終了したときの状態。
このあと、40分~1時間、一次発酵をとる。
250gで分割、ベンチタイムのあと、俵型に成形。
成形では、きちんと生地を張ることや、グルテンの向きを意識することを心がける。
そうすることで、生地の伸びが変わってくる。
「家庭でやる場合は、最初に3つ折りしたほうが、生地に力がつきます。
僕らが店でやるときはこれはしません」
わかりやすいようフキンで実演してくれた。
「ぐるぐるっと巻いてください」
「そしたら生地をひっくり返して綴じます。
こうすることで、グルテンの向きと同じ方向に綴じることができます。
力をつけたいので、グルテンの綴じ目の線に合わせて左手の親指を差し込んで、生地をしっかり張らせます」
成形し、生地を型詰め。
最終発酵は常温で40分~1時間。
「型から生地が少し出たぐらいのところで発酵を終了させてください」
窯入れ前に、茶漉しで粉をふる。
食パンだが、ハード系のようにクープを入れる。
「クープを入れると火通りがよくなり、家庭用のオーブンでも高さが出ます。
食感のいいものを作りたかったら、早く焼き上げるのがポイントです。
クープは3本でも1本でも大丈夫。
お好きなように入れてください」
家庭用のオーブンで、パン屋さんのオーブンと同じような効果を得る秘策。
バットなどにお湯を張り、いっしょに入れて、「追いスチーム」を行う。
家庭用オーブンのスチーム機能だけでは、業務用のオーブンのスチーム量に追いつかないからだという。
焼きの温度は、スタート時、意外と低めの180℃。
いきなり高温でダッシュして皮を固めてしまうとそれ以上ボリュームが伸びなくなるからだ。
180℃を15分のあと、お湯を張ったバットを取り出し、そこから230℃で3分、220℃を5分。
「固めない状態をつづけて、8割伸びたところで火を入れはじめてしっかりと固めて、腰折れしないようにします」
完成。
どの生徒さんもみんなすばらしい出来栄え。
あえて浅めの焼き色で仕上げている。
やさしい食感と麦の風味を残すことが狙い。
だが、焼き色を濃くすることの効果もある。
「色をつけると2日目がおいしくなります。
ぱさついた状態でも香りがよくなる」
昼食は、焼きあがった食パンと、レモンのピクルス入りのドライカレー。
驚くほどしっとりして、口の中でほどけがよく、それでいてみっちりとしていて味わいが濃い。
これも、「こねない」ことのメリットだ。
◎ Happy Cooking
新麦コレクションプロデュース「小麦が主役のパンレッスン」など、第一線のパン屋さんが教える豪華なレッスンが人気。
https://www.happycooking.jp
TOLO PAN TOKYO
東京都目黒区東山3-14-3 中里ビル 1F
TEL 03-3794-7106
営業時間 07:00~19:00
火曜、第1・3水曜休
新しいアイデアが次々と湧き出す田中真司シェフのベーカリー。ばりばりとしてバター感の強いクロワッサンや、かりかりとした食感がおもしろいフォカッチャなど、他店では見かけないようなイノベーティブなパンが揃う。
パンライター。パンの研究所「パンラボ」主宰。ブレッドギーク(パンおたく)。パンを食べまくり、パンを書きまくる。日々更新されるブログ・twitterでは、誌面で紹介しきれないパンの情報を掲載中。主な著者に『パンラボ』(白夜書房)、『パンの雑誌』(ガイドワークス)などがある。
【BLOG】http://panlabo.jugem.jp/
【Twitter】@ikedahiloaki