「北海道産小麦粉 製パン技術講習会」に、食パンが人気の「nichinichi」川島善行シェフが登場。ヨーグルトの風味をプラスした「ヨーグルトカンパーニュ」(「プレーン」と「ベリーベリー」)を披露した。
食べにくいイメージがあるカンパーニュを、食べる人にやさしくするアイデアがいっぱいのレシピだ。
まずはミキシングから。
E65(50%)、TYPE100(20%、ともに江別製粉)にライ麦全粒粉(20%)、全粒粉(強力)(10%、江別製粉)、水(50%)、ヨーグルト(23%)、ルヴァン(10%)、レーズン種(12%)、はちみつ(5%)、塩(2.3%)、モルト(0.8%)。
レーズン種やヨーグルトも足すと水分量は90%以上となり、水分の多さが目を引くレシピだ。
「水は増やせば増やすほど、味が薄まります。
だから、塩(通常2.0%)は2.3%にして、味を補足する。
香りが強いパンなので、塩をきかせたほうがバランスいいかなと」
塩を後から入れる「後塩法」で。
「塩だけが入ってない状態で、ローで5分ぐらいまわします。
塩を入れると生地が締まります。
締まっている状態でミキシングをかけると、グルテンが粗く作られ、なめらかなグルテンになってくれない。
塩を入れないとなめらかにまわります」
塩を入れるタイミングの見極め。
「グルテンがつながってきたかな、ぐらい。
もう締まってくる状態です。
こうなったら塩を入れて大丈夫」
バシナージュ(差し水。ミキシングの終盤に少しずつ水を入れて水分量を増やすテクニック)で水を10%入れる。
捏ねげ温度は26℃。
常温で1時間置いたあと、パンチし、冷蔵庫へ。
6℃で18時間おく。
「これが1℃とかだと、すぐに発酵が止まりますが、6℃は発酵をゆっくり止めたいとき。
止まっていく中でもある程度発酵は進むという温度です」
このとき、高さのあるケースを使うことにも理由がある。
「容器の壁を使って骨格(グルテン)を作るためです」
翌日、冷蔵庫から出した生地はかなり締まっている。
「プレーン」は400gで分割。
ドライフルーツ入りの「ベリーベリー」は200gで。
「ガスを抜かないように切ってあげてください」
「生地をまとめるときは、ただ起こして、90度返して、ただ起こす。
ガスは一切抜かない。
今日はイーストではなく、自家培養発酵種。
18時間かけてためたガスを抜いたらもったいない」
ただ畳むだけ。
生地へのダメージを最小限に抑え、やわらかく、味わい豊かな生地を作りあげる。
と同時に、気泡の調整もこのとき行っている。
「人間はパンのどこを食べるかっていうと、気泡ではなく、そのまわりですよね。
サンドイッチ用にするので、気泡が大きすぎると、サンドイッチソースがこぼれてしまう。
分割していったんまとめるとき、力が加わる。
このとき、生地の中の気泡が小さく分かれます。
その大きさの加減も少し調整してあげてます」
分割のあとのベンチタイムは、生地を休ませるための時間。
だが、このパンの場合、30分以上とたっぷり取る。
「これが最終発酵になります。
いったんゆるませてから成形、その後6℃に入れてキープ。
成形冷蔵です。
こうすると『内相どや!』というぐらいかっこよくなるので、インスタに上げがいがあります(笑)」
成形のとき、生地をケース(バンジュウ)から作業台の上に移す、なにげない作業。
このときにも生地を傷つけない方法がある。
「バンジュウをひっくり返して、生地をそのまま落としてください。
カードで取ると、カードで触った部分の食感が悪くなってしまいます。
ひっくり返すだけだと、スタッフの誰がやっても生地が同じ状態にキープされる。
落ちてくるまで少し時間がかかりますが、その間ちがう作業をすれば時間も無駄にならない」
たくさん水の入った扱いにくい生地。
手粉をたくさん振って成形することになるが、そのときの注意点。
「手粉をふるときは、ふるいを使うときれいにできます。
麺台に残っている粉も、ぜんぶふるいに入れます。
まんべんなく、でもあまり厚くならないように。
飛びだしたベリーも焦げないようカバーできます」
まず「ベリーベリー」の成形。
ここでも、作業性より、生地ファースト。
ダメージを与えないことを最優先させる。
「ガスを抜きたくないので、やさしくやさしく。
2つ折りにして張らせる。
もう一度2つ折りにして張らせる。
転がして形を整えます」
つづいて「プレーン」。
あらかじめ発酵かごに粉をふっておく。
「生地を左右から真ん中に引っ張ってもってくる。
ちゃんと引っ張って、張らせながらもってきてください。
もう一度左右から引っ張って持ってくる。
ぐっと引っ張って重ねて。
押さないで、最後だけ下をきゅっと締めてあげて、かごに入れるだけ。
潰さなくても、ちゃんととじれます。
潰すと食感がねちゃつくので、くっついてくれるのを待ちましょう」
約2時間後、カンパーニュを窯入れ。
カゴからピールの上に出し、横1本のクープを入れる。
下火235℃、上火240℃で、25~30分程度焼く。
6℃の冷蔵庫に入れておいたので、生地は冷たくなっている。
「冷たいままいっちゃいます。
そのほうが、ぺたんこの生地がぼこっと上がる。
それはなんででしょう?
酵母が出した炭酸ガスを溜めこむのは、あったかい生地でしょうか、冷たい生地でしょうか。
コーラで考えてみると、ぬるいコーラより、冷たいコーラがしゅわっと感がありますよね。
冷たいコーラのほうが炭酸ガスをたくさん溜めているからです。
それと同じで、冷たい生地のほうが炭酸ガスをためこんでいるので、窯伸びします。
オーブンの中に入れた瞬間に、一気に気化するので、ぺたんこの生地でも高さが出ます。
前スチーム2回、後スチーム2回。
そのあと、ダンパーを開けて5~7分。
クラストがまだ焼き固まってない、やわらかい状態で出す。
かりかり感を、僕は必要としていない。
皮ががりっとすると、食べる人にとって最初の一口目がハードすぎる」
右は「ベリーベリー」、左は「チェダークミン」。
完成。
薄くてしなやかな皮。
やわらかなもっちり感と、あふれるような口溶けが特徴。
甘みがあり、発酵種の香りもやさしい。
nichinichiは住宅地にある、家族連れが多く訪れる店。
このヨーグルトカンパーニュも、ハード系が食べ慣れてない人でも、おいしく食べられるよう工夫が凝らされていることがおわかりいただけただろう。
作業性より生地を、自分が作りたいパンよりお客さんが食べたくなるパンを、優先するのが川島善行シェフのパン作りだ。
nichinichi
新百合ケ丘の丘の上にあるベーカリー。
耳までやわらかく子供でもぜんぶ食べきれる食パンが大人気。
国産小麦や地元でとれた野菜や卵を使用。
クリームパン、メロンパン、ミルクフランスなどの菓子パン系、フォカッチャ、サンドイッチなどの惣菜系パンなど、子供からお年寄りまで楽しめるパンを展開。
神奈川県川崎市麻生区万福寺4-8-4 ペルナ 101号
044-819-6631
10:00~18:00(日祝 9:00~19:00)
※売切れ次第終了
不定休
パンライター。パンの研究所「パンラボ」主宰。ブレッドギーク(パンおたく)。パンを食べまくり、パンを書きまくる。日々更新されるブログ・twitterでは、誌面で紹介しきれないパンの情報を掲載中。主な著者に『パンラボ』(白夜書房)、『パンの雑誌』(ガイドワークス)などがある。
【BLOG】http://panlabo.jugem.jp/
【Twitter】@ikedahiloaki