1950年に創業、日本一の面積と年間30万人の集客を誇るベーカリー「麦音」をはじめとし、十勝と東京で8店舗を展開する満寿屋商店。
小麦生産量日本一の農業王国・十勝に根を張り、100%十勝産小麦を使用。
品種ごとのみならず、生産者の個性まで、北海道産小麦の特徴を知り尽くしている。
1月16日、渋谷の日仏商事で行われた満寿屋商店の講習会に、天方慎治シェフが登場、人気のパンを披露した。
その中から、茹でない、時間もかからない、とっても簡単な「『炊き種®』あずきベーグル」を紹介する。
『炊き種®』と湯種の違い
『炊き種®』は、満寿屋商店と帯広畜産大学の共同研究で開発された(『炊き種®』の名称を許可なく商業利用することはできない)。
通常の湯種とちがうのは、入れる水の量。
「小麦粉に対して6倍以上の水を入れて炊きます」
通常、小麦粉:水が、1:1~2ぐらいで作られるところを、水の量を大幅に増やしている。
今回は「あずきベーグル」ということで、粉末あずきも混ぜた「あずき『炊き種®』」を作る。
「水(700ml)に、キタノカオリ(50g)と粉末あずき(100g)を混ぜて、しっかり溶かしてください。
まず液状にしてから、火を入れる。
じょじょに火を入れて沸騰させ、30%程度の水が蒸発する(合計が600mlになる)までぐつぐつ炊きます。
すると、ういろうみたいなものができる」
これを冷蔵庫で一晩おけば『炊き種®』はできあがり。
湯種とどのようなちがいがあるのだろう。
「湯種と同じように、α化したデンプンがいい影響を与え、もちもちして甘みが出ます。
ただ湯種の場合、生地のすべてをα化するのはむずかしいのですが、『炊き種®』は、炊き種に使用する小麦粉のすべてを完全にα化させるので、もっと甘みが出ます
『炊き種®』の段階で、あずき粉末を入れたほうが、あずきの色もきれいになります」
『炊き種®』製法のもうひとつのよさは、引きが出ず、食感がよくなること。
本ごねを見ればその理由がわかる。
本ごねの過程を見てみましょう
「いたって簡単です。
1速3分、3速で3~4分。
通常3分ミキシングすればもうまとまるので、あとは2~3速ぐらいに速さを上げて、生地がつるんとするまで練れば、終了です」
こねはじめ
約1分後
約3分後
約6分後
こねあがり
このときの配合は、キタノカオリとゆめちからを約半量ずつ。
北海道産のビートグラニュー糖HA(4%)と塩(1.6%)とインスタントドライイースト金(0.5%)、水(10℃)はわずか10%、あずき『炊き種®』が60%も入る。
「ゆめちからのもっちり感とキタノカオリの甘みを表現できる。
たった10%の水しか入らないので、グルテンができづらい。
もちもちしながらも、歯切れがいいベーグルになります」
発酵時間もいらず、すぐに分割・成型へ。簡単スピーディ。
この後も超簡単。
発酵時間なしで、分割・成型へと進む。
「ミキシング終了、即分割、即成形。
冷蔵庫で一晩おいて翌日焼成。
とっても簡単な、『成形冷蔵ベーグル』です」
成形は、十勝産あずきかのこを包んで。
「生地(90g)の中にあずきかのこ(15g)を入れる。
モルダーがあればモルダーを通して伸ばしてもいいです。
ねじりながらぐるっと伸ばして綴じる。
ねじることで力がつくので、食感もボリュームも変わります。
つなぎめが多少雑でも、仕上がりはあまり気にならないので大丈夫です」
綿棒で伸ばした生地にあずきかのこを置き、ぐるぐると巻きこんでチューブ状に閉じて、それをつなぐ。
成形の後、冷蔵庫にしまい、オーバーナイト。
翌日、冷蔵庫から出したら焼成。
「前日の1.5倍にふくらんでるとベスト。
復温させてから窯入れします」
ベーグルに特徴的な茹でる工程(ケトリング)も必要ない。
「茹でないベーグルです。
スチームを多めに、3発ぐらい入れます」
焼成温度も低め(上210℃、下180℃)で、「菓子パンと同じぐらいの温度」なので効率がいい。
焼き色をつけすぎないのが肝心。
「焼き色をつけるとあずきの香りが飛んでしまうので、薄くしてます」
約15分程度焼けば完成。
もっちりしているが、ごわごわ感はなく、口溶けもいい。
十勝産小麦ならではの甘さも活きている。
北の大地では、天方さんが中心となり、続々と新しいパンが生まれている。
「炊き種®」ベーグル。枝豆、カボチャ、ハスカップ、あずき、トウモロコシの5種。一番手前があずき。
パンライター。パンの研究所「パンラボ」主宰。ブレッドギーク(パンおたく)。パンを食べまくり、パンを書きまくる。日々更新されるブログ・twitterでは、誌面で紹介しきれないパンの情報を掲載中。主な著者に『パンラボ』(白夜書房)、『パンの雑誌』(ガイドワークス)などがある。
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