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季節の果物や花からできる、家庭の種起こし~「畑のコウボパン タロー屋」星野太郎 氏

「畑のコウボパン タロー屋」の星野太郎さんが、2018年11月にHAPPY COOKING東京本校で行ったパンレッスンから、りんごの液種(文中では、星野さんの言い方にならい「りんご酵母」と表現)の作り方をレポートする。

季節の果物や花からできる、家庭の種起こし

タロー屋は、四季折々にとれる果物、野菜、花などから液種を起こしてパンを作る。種継ぎせず、フレッシュな状態でパンを作るため、種起こしに使った素材の風味も表現され、酸味もなくクリアな味わいになることが特徴。毎日種継ぎをする手間や、種が必要以上に増えすぎてしまう心配もないので、家庭で試しやすい方法といえる。

星野さんにとって「酵母」とは、ただのパンを作る材料にとどまらない。身近にある季節を五感で知り、それをお客さんへ届ける方法である。言葉の端々に季節の表現が入り混じる。


「季節の酵母3種類を持ってきました。開栓しますので、香りを嗅いだり、勢いを確かめたりしてください」

◎りんご酵母


大型のガラス瓶に入れた酵母のふたを星野さんが開く。最初にふたを開けたのはりんご酵母。白い泡が湧きでてきた。

「群馬県の片品村でりんご狩りをしてきたもので起こしています。
これぐらい元気だとストレート(オーバーナイトさせず当日仕込み・焼成)で大丈夫。
ただ時間はかなりかかりますが」

◎ゆず酵母


次にゆず酵母。ふたがゆるんだだけで、勢いよく液体が飛び出してきた。泡立ちもりんご酵母以上。

「りんごより元気なのはゆず。発酵力がありパンに適しています。隣の庭に樹齢百数十年の木があるんですけど、今年で切られてなくなってしまう。これが最後のゆずです」

◎きんもくせい酵母


きんもくせい酵母も十分な泡立ちがある。

「この酵母でリュスティックを焼いています。開花は10月初旬ごろ。きんもくせい酵母が起きないと、秋がこない気がして。花の時期に台風がきて、一気に散ってしまったんですが、その前に仕込んでおいてよかったです。香りがいい酵母で、『一番だし』『二番だし』みたいに、香りがつづくだけ何回も使うことができます」

酵母を仕込みましょう ~ りんご酵母

酵母の仕込みを行う。今回は、ちょうど旬だったりんごの酵母を起こす。使用するのは、750mlの瓶。

「やり方人それぞれですが、私はスクリュータイプの瓶を使用しています。
密閉して空気を遮断することで、失敗なく酵母が起こせます。
りんごをくし切りにしたものを入れ、お水をたっぷり注ぐだけ。
シンプルな方法です」


「りんごはどんな種類でもいいですが、新鮮で質のいいものを。
りんごに限らずですが、野生的な環境で育ったものが発酵しやすいです」


「土ぼこり、汚れをさっと洗い流して、切っていきます。
今日は12等分しますが、8でも4でもいいんです。
大きくカットすると発酵が遅く、小さくすると早い。
皮は基本剥かないように。
皮に菌がついています。
香りもいいですし」


カットしたりんごを半個~1個程度いれて、水を入れる。

「畑のコウボパン タロー屋」の星野太郎さんりんご酵母作り(種起こし)

「瓶に対して6、7分目の高さが適量。
瓶の首下ぐらい。
あまり多いと、かさが増えすぎて、飛び出してしまいます」

酵母から発生したガスによって、ふたが吹き飛んだり、瓶が割れたりする危険性があるので、充分注意して行いたい。

「ふたをきっちり閉める。
腕力に自信がないかたはラップをかけるときちんと閉まります。
空気を遮断して酸素が少なくなると、空気がないと生きていけない菌が死滅します。
酵母は空気があってもなくても生きていけるので、酵母の優勢な環境ができます。
酸素が入らないように、3日か4日は開けないでほしい」

雑菌がいなくなった頃を見計らって、空気を入れ、酵母数を増やすフェーズへ。この見極めは下記のように行う。

「気泡ぶつぶつ出てきて、発酵しているにちがいないと思ったら、開けても大丈夫
りんごの色が抜けて黄色になったり、浮いてきたり、白濁したり。
酵母が優勢になって瓶の中に世界ができはじめたら、ほんの一瞬だけ開け閉めをします。
1日2回でも3回でも。
瓶を降ってあげて、静かに酸素を行き渡らせます。
ふたを開けたとき、『しゅっ』という音がするぐらい発酵したら、パンの作り時です」

生徒さんが作ったりんご酵母。

約1週間程度おいて完成したりんご酵母。

「1回で使い切れない場合、冷蔵庫へ入れましょう。
そのとき、ガス抜きしておくのを忘れないように。
使用する半日前になったら冷蔵庫から外へ出し、常温に戻ったら、再び酵母が活性化します。
しゅんとしたままならお砂糖をひとさじふたさじ入れると、その日のうちに活性化すると思います
前の晩から出しおくのが、いちばんいいと思います。
出しすぎてダメということはありません」


「すりおろしりんご酵母」はブレンダーでピュレ状になるまで細かくしたりんごから起こすもの。

「こっちは果実味が濃くて、発酵力もより強いです。
りんご、洋梨、桃、いちごなど果汁が多く、硬い皮や房がなくてピュレにしやすそうなものならなんでもできます」


一度、液種を起こすことに成功していれば、次のときは、前回分の残りをスターターとして入れてあげれば、安定して早く起こすことができる。


左から、完成したりんご酵母、作ったばかりのりんご酵母、すりおろしりんご酵母

こうして起こした液種を粉と合わせ、パンにする。
タロー屋の店先には、季節折々、色とりどりに、さまざまな液種を入れた瓶が並んでいる。
春はイチゴに八重桜、夏はトマトやラベンダー、秋はぶどうに柿、冬は冒頭で書いた3種の他にキンカンなど。
目で見て、鼻でかぎ、舌で味わう。
こんな季節の感じ方があることを、星野さんに教わった。

タロー屋
すべてのパンを季節の素材から起こした自家製の液種から起こす。
北海道の小麦、自家菜園で栽培した野菜などを使用。
埼玉県さいたま市浦和区大東2-15-1
048-886-0910
木曜・土曜営業
http://www.taroya.com/newshop.html
星野太郎さんの著書「春夏秋冬、季節の酵母が香るパン」
酵母の起こし方から四季折々のバリエーションまで。自家製液種によるパン作りのバイブル的な一冊
Profile 池田浩明
パンライター。パンの研究所「パンラボ」主宰。ブレッドギーク(パンおたく)。パンを食べまくり、パンを書きまくる。日々更新されるブログ・twitterでは、誌面で紹介しきれないパンの情報を掲載中。主な著者に『パンラボ』(白夜書房)、『パンの雑誌』(ガイドワークス)などがある。
【BLOG】http://panlabo.jugem.jp/
【Twitter】@ikedahiloaki

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