山﨑豊シェフ(右から2番目)| photo by@Lynne
震災の年以来つづけられている「チャリティ製パン講習会」。10月に日清製粉小網町加工技術センターで行われた第18回目は、ZOPF伊原靖友シェフ、オーヴェルニュ井上克哉シェフ、名古屋の「涼太郎」渡邊涼太郎シェフ、パン工房ぐるぐるの栗原淳平シェフ、そして発起人の山﨑豊シェフが登壇した豪華な講習会となった。
右が山﨑豊シェフ | photo by@Lynne
その中から、山﨑シェフの「パン フルーツルージュ」を紹介。随所に、レジェンドらしい技と、素材への深い理解を感じさせた。
山﨑シェフの材料選びは
はじめにミキシングから。日清製粉のカメリヤとエコードを同割で使用。砂糖はビート糖、塩はゲランドを選択。卵黄、そして水分は北海道4.0牛乳(タカナシ乳業)で仕込むリッチな配合。さらに、10%を脱脂濃縮乳(タカナシ乳業)で入れる。牛乳以上の濃厚な味わいが驚きを生みだす。
硬いままのバターを入れ込む理由と秘訣
ミキシングは、ローで2分、ミドルで3分。しっかりとグルテンを形成したら、バター(イズニーバター)を入れる。一般的には、常温でやわらかくしたバターを入れることが多いが、それだと風味が逃げることが否めない。山﨑シェフは冷蔵庫から出したての硬いバターを入れる。それでもきちんと混ざる秘策がある。
「シートバターを入れます。シートバターは可塑性があるので、混ざりやすい。注意点はしっかりミキシングすること」
ドライフルーツはどんなお酒で漬ける?
混ざったら、ローでドライフルーツとホワイトチョコを混ぜこむ。「4種のベリーミックス」(富澤商店)、糖置換ドライストロベリー(正栄食品)は、定番のラム酒ではなく、グランマルニエ(ドーバー貿易)に漬けておく。
「お酒を変えるだけでパンの味も変わります。使わないのもったいない」
使い勝手良く、冷蔵できるパン生地。でも注意すべきこと
使い勝手のいい生地。
「冷蔵しても問題ありません。生地玉でも、分割してから冷蔵でも大丈夫です。型で焼いて、食パンのようにしてもいいですし。チョコレートを入れないようにすれば、サンドイッチ用にも使えます。編みパンをするのもいいです」
パンチ1回をはさんで、24℃120分のフロアタイム。その後100gで分割、ベンチタイム。このとき注意したいことがある。
「分割のとき、綴じ目を上にします。そうすると、時間が経つと綴じ目が開きます。開きが早いとベンチタイムも短くてすむ。長いともったいない。5分、10分でも早く終わりたいですから。成形のときも上にすることが多いです。そのほうが生地が早くゆるんで、早く焼ける。締めつけて張らせると、ボリュームは出ますが、僕はやりません。ボリュームを出そうという考えがないんです」
生地の折り込みは、基本的にしっかり綴じません
生地にストレスをかけず、ゆるみを早くして、時間も短くする考え方は、成形も同じ。
「空気を抜いて3つ折りします。2つ折りで綴じるとか、丸めるとか、どんな成形でも大丈夫ですが、基本的に僕はしっかり綴じません。力を入れて綴じると痛む。今回は油脂が入っているのである程度痛みには強いですが、特にバゲットだとやらないです」
成形した生地に塗り玉を塗り、シュトロイゼル(そぼろ状の甘い生地)をつける。
「シュトロイゼルは、ふりかけるときれいにのりません。(ボウルなどにシュトロイゼルを入れ)まぶします。生地を持つときは、必ず綴じ目に手をかけてください」
最終工程、焼き上げへ
生地を鉄板にのせる。
シュトロイゼルは、バター50、砂糖50、粉100、レモン1、エッセンス0.1という配合。事前に焼き上げておく。
「バターの中に砂糖をすり混ぜて。粗くしたければ裏ごししますが、今日は重たく作っています。レモンとバニラを入れましたが、ココアでも抹茶でもシナモンでもお好みで大丈夫。冷凍しておけば日持ちします」
上200℃、下180℃で14分焼成したら完成。牛乳とホワイトチョコ、2種類のミルキーさとフルーツの出会いは心躍らせるもの。パンだけでなく、お菓子を得意とする山﨑シェフならではの味の組み合わせ。そして、意外と忘れられているパンの大事な基本もしっかりと教えてくれた講習だった。
photo by@Lynne
ドイツ、フランスなどでパンとお菓子を学ぶ。ジェラールミュロ、ブーランジェリー ブルディガラなどのシェフを歴任。2012年、ドイツ・ミュンヘンで行われた国際製パンコンクール「ibaカップ」日本代表監督。
著書に「手づくり絶品レトロパン 冷蔵庫でねかせるだけ! プロが教える」(世界文化社)(Amazon.co.jpへリンクします)
【Instagram】 https://www.instagram.com/lynnesmeal/
【BLOG】 https://lynne2.exblog.jp/
パンライター。パンの研究所「パンラボ」主宰。ブレッドギーク(パンおたく)。パンを食べまくり、パンを書きまくる。日々更新されるブログ・twitterでは、誌面で紹介しきれないパンの情報を掲載中。主な著者に『パンラボ』(白夜書房)、『パンの雑誌』(ガイドワークス)などがある。
【BLOG】http://panlabo.jugem.jp/
【Twitter】@ikedahiloaki