理論的でわかりやすい語り口で人気の高い、「ロティ・オラン」堀田誠シェフによる「パン職人のための製パン基礎知識講習会」が、HAPPY COOKING東京本校で行われました(酵母編のレポートはこちら)。
今回のテーマは「製法」。
オートリーズ、老麺、中種、ポーリッシュといろんな製法がありますよね。
それぞれどんなちがいがあり、どんな狙いで使い分けられるのか、堀田さんが、わかりやすく整理。
今回も目からウロコです。
オートリーズ製法とは? 美味しくする特長は「酵素」「生地の伸展性」
オートリーズは、ミキシングの前に、酵母は入れずに、粉と水を合わせてしばらく置き、水和(粉が水を吸うこと)をうながす製法。
2、30分行う場合が多いですが、長時間オートリーズ製法も現れています。
「短時間の場合は常温25~30℃がおすすめ。24時間ぐらい長時間の場合、おすすめは5℃以上10℃未満の場所でやると、扱いも簡単です。
10℃以上20℃未満だと、種起こしをする条件といっしょになってしまい、すっぱくなったり、菌が繁殖したりしてしまいます」
オートリーズが効果的な理由は大きく2つ。
ひとつめは、「酵素」。
小麦粉のデンプンを糖に変え、パンをおいしくします。
「オートリーズは、5℃以上で行うのが絶対条件。
酵素活性がぎりぎりあるからです。
10℃に近いほうが酵素はききます。
甘み、旨みにつながる。
小麦自体がもってる酵素でおいしくさせる、自分で自分をおいしくする製法です。
溶けたおかげでおいしくなってくるよ」
もうひとつの長所は、生地の伸展性がよくなること。
「オートリーズをすることで、グルテンの形成がスムーズになります。
粉と水を合わせただけでも、グルテンはできます。
それをどれぐらい強くするかはミキシングで決める。
窯伸びがよくなるし、伸展性がアップします」
ただし、生地にゆるみが起きるという点には注意が必要だと、堀田さんは付け加えていました。
老麺法(パート・フェルメンテ)とは?効果は?
発酵(微生物の働き)をさせない、シンプルな製法であるオートリーズを基礎にして、他の製法の解説に入っていきます。
つづいて、老麺法(パート・フェルメンテ)。
前日などに作った古生地を使う方法。
「老麺を入れると、発酵が安定します。
多少のこねあげ温度の変化に耐えてくれたり、スムーズにふくらんでくれるようになる。
それってどうしてなんだろう?
ph(ペーハー)が弱酸性になるからです。
インスタントドライイーストってなんでビタミンCが入ってると思う?
ビタミンCをほんのちょっとだけ生地に添加すると弱酸性になります。
生地を引き締めたり、コシが出やすくなり、酵母も元気になります」
(写真・老麺の効果を読み解く鍵はphにあり)
生地の改良と、発酵しやすくすること。
さらに、もうひとつの効果があると堀田さんは言います。
超微量のイーストを計量できるということ。
微量のイーストで老麺を作り、それをほんの一部だけ本ごねで入れれば、添加されるイーストを超微量にできます。
長時間発酵で知られる志賀勝栄シェフ(シニフィアン・シニフィエ)が老麺を使うのも納得です。
(写真・ポーリッシュと中種のいちばん大きなちがいは硬いかやわらかいか)
次に、ポーリッシュと中種法。効果的な使い方
堀田さんは、受講者に問います。
中種とポーリッシュは、何%ぐらい入れますか? と。
「ポーリッシュは30%ぐらいまでがすごく多いですよね。
中種は100%もありです。
でも、30%未満で使うことはほとんどないですよね。
なんで中種は多いのに、ポーリッシュは少ないの?
真逆な狙いがあるんじゃないの?」
「中種は、ちょびっとなんかしないほうが効果絶大。
おすすめは6割以上」
「中種とポーリッシュで、決定的にちがうのは水分量
中種は硬いですけど、ポーリッシュはしゃばしゃば。
中種は、入れても粉の70%まで。
ポーリッシュは粉と同量、ないしは2割増」
ポーリッシュを3割までしか入れない(入れられない)理由、それはポーリッシュ種に使用した小麦のグルテンが壊れているからです。
「ポーリッシュは手早くホイッパーや木べらをがちゃがちゃやって、思いっきり攪拌しますよね。
グルテンをずたずたにして、骨格を破壊します。
そのおかげで窯伸びがよくなるし、歯切れもいいですよ。
バゲットの内相も、生地がゆるいほうが気泡が広がりやすい。
蜂の巣状の内相を目指す人はポーリッシュでやってください」
風味をよくしてくれるポーリッシュ。ダメージに強い安定志向の中種法
ポーリッシュのもうひとつの狙いは風味をよくすること。
「水分量が多いほうが微生物の動きがいい。
酵素も働かせて、パンをおいしくしたい考え方です。
灰分値の高いロング挽き、石臼挽きの粉を使うと複雑で旨味を併せ持った風味になります。
イーストは少量でも爆発的に増えてぶくぶくして、まろやかないい香りになります。
ただ、一部のグルテンが壊れてる可能性あるので、きついミキシングはだめ。
低速でよくこねると伸びやすくなります」
中種法は、パンを大量生産する工場で使われる製法。
ポーリッシュとは反対に、水分の少ない硬い種を作ります。
「中種は、がっちりこねる人は少ないです。
水がいきわたるだけこねれば終了。
あとで威力を発揮します。
グルテン骨格を使いきってないので、本ごねのとき強いミキシングに耐えられます。
弱点は、硬い生地なので、遊離水が少なく、微生物の動きが悪いことです」
つまり、発酵が生みだす風味は弱い。
これもポーリッシュと反対。
ポーリッシュがバゲットによく使われる一方、中種は食パンや菓子パンなど多岐にわたって使われる製法です。
「中種は、簡単に生地がふくらむ、安定指向の製法です。
イーストも多めに入れることが多く中種の中で元気よく増えているので、スタートダッシュがめちゃめちゃいい。
ここに砂糖を入れて生地をやわらかくすれば、爆発的にふくらみます。
一次発酵を長くとる必然性もなくなります。
ダメージに強いし、生地はソフト。
オーバー気味に、からみつかせるようなミキシングをするとたくさん伸びます。誰が作ってもふわふわパンができる。」
(写真・ポーリッシュと中種の効果のちがい特徴のちがいを見事に説明)
オートリーズから説き起こして、老麺、中種、ポーリッシュ。
それぞれの製法の特徴が整理され、かなり理解しやすくなったのではないでしょうか。
これは、堀田さんの話のエッセンスを抽出したもので、実際の話はもっと示唆に富み、パン作りを前に進める力になります。
ぜひ堀田さんの教室に足を運んでみてください。
「パン職人のための製パン基礎知識講習会」
第5回「酵母の選び方 ~製法から発酵種へ~」
2019/1/29 14:00~17:00(17:30から懇親会)
参加費 5,500円
HAPPY COOKING 東京本校
東京都千代田区神田錦町3-3 竹橋3-3ビル 1F
(お申込み・お問合せ)Tel.03-3518-0013
※プロのパン職人さん限定となることをご容赦ください。
◎堀田 誠さんの著書「誰も教えてくれなかった プロに近づくためのパンの教科書」
◎プロフェッショナルに学ぶパン教室「Happy Cooking」
パンライター。パンの研究所「パンラボ」主宰。ブレッドギーク(パンおたく)。パンを食べまくり、パンを書きまくる。日々更新されるブログ・twitterでは、誌面で紹介しきれないパンの情報を掲載中。主な著者に『パンラボ』(白夜書房)、『パンの雑誌』(ガイドワークス)などがある。
【BLOG】http://panlabo.jugem.jp/
【Twitter】@ikedahiloaki