「nichinichi食パン」が人気沸騰、最近の食パンブームを牽引する、nichinichiの川島善行シェフ。
Happycooking東京本校で行われた、シェフ本人が食パンの作り方を教えてくれる、注目のレッスンをレポートする。
レッスン開始の時間になっても、川島シェフの姿は見えない。
どうしたのかと思っていると、放送が聞こえてきた。
「ジョリー川島、ワールドツアーコンサートまもなく開演いたします」
イントロとともに、頭は七三、胸に薔薇の花を挿したジョリー川島が登場、(自分で配った)ペンライトやうちわが揺れる中、細川たかしの「北酒場」を熱唱。
爆笑の渦に巻き込んだ。
川島シェフは、元お笑い芸人という経歴を持つ。
レッスン中にもちょこちょこネタを突っ込んでくるので、油断がならない。
今回教えるのは、1斤型で作る「sonomama食パン」。
北海道産キタノカオリを100%使用する。
口溶けよく、素材感が豊かなので、焼かずに「そのまま」食べられる。
キタノカオリと素材の風味が、ストレート製法で「そのまま」表現されているからでもある。
油脂を最初に入れる理由
水は入れず90%もの牛乳で仕込む。
今回はニーダーでミキシングを行う。
「はちみつ、塩、砂糖、牛乳を入れます。
はちみつが砂糖や塩をつかんだら分散しにくいので、ここでしっかり溶かすのが大事です。
そのあと、粉、さいの目に切ったバターなど固形物を入れます。
イーストはバターにくっつかないように入れましょう」
グルテンの形成をさまたげる油脂は、ミキシングの最後に入れるのが定石だが、ここでは最初に他の材料といっしょに入れる。
「グルテンを作らせないようにすることで、引きを弱くするためです。
窯で伸びないが、口の中でもろい(ほどけやすい)食感になります」
「最初はローで。
粉っ気がなくなったら回転を速くしましょう。
だんだん生地がつるんとしてきましたね」
薄い膜ができるようになるまでだいたい15分。
バシナージュしながら、さらに約5分。
パシナージュとは?窯のびをしやすく
バシナージュはグルテンができあがった生地に、水分(ここでは牛乳)を追加するテクニック。
川島さんは、容器から糸のように細く牛乳を垂らし、徐々に入れていく。
入れるタイミングはどのように知るのか。
「牛乳を入れると、生地の表面がてかてかになりますよね。
それが乾いてマットになったら次を入れます。
牛乳が下に落ちると、すべって空まわりするので気をつけてください。
バシナージュをつづけると、生地がしなやかな状態になります」
バシナージュは、加水の多い生地を作るのに有効。
しかも、生地中に吸い込まれた水分ではなく、「遊離水」を作りだす。
「遊離水があると、窯のびしやすくします。
水が浮いてるので、水蒸気になり、それが生地を上に持ち上げるのです」
バシナージュもキタノカオリ特有のもちもち感をやわらげる工夫のひとつ。
「(普通に作ると)口の中でもちもちがつづいちゃう。
『もち』が3回ぐらいで消えていく、そんな食感にしたい。
『もち』を切ってあげないと、口の中で溶けない。
そのために、バターの先入れやバシナージュを行います」
手ごねでバシナージュをする方法
手ごねでバシナージュをする方法も教えてくれた。
「手で牛乳を塗ります。
叩きつけるようにこねながら、伸びた生地と生地の間に牛乳を塗る。
クロワッサンのように牛乳で層を作るイメージです」
捏ねすぎになってしまったら?
受講者もミキシングを行ったが、中にはオーバーミキシングになってしまうグループも。
川島さんが生地を持ち上げると、下に垂れ落ちてしまう。
「キタノカオリはミキシング耐性が低いので、注意が必要です。
やりすぎると、こんなふうにグルテンが切れてしまいます」
対応の仕方はあるという。
成形のとき多めに折り返し、生地を多く重ねることで、切れた分のグルテンを補うことができる。
30分発酵→パンチ→30分発酵→パンチのあと冷蔵庫でオーバーナイト。
翌日は常温で2時間おき、生地が2倍にふくらんだら分割。
加水の多い生地なので、傷つけないよう、取り出す際にも注意が必要だ。
きめ細やかな舌触りを作りたい
「生地の上に手粉をいっぱいのせて、作業台にもいっぱい手粉を。
容器の壁と生地のあいだにカードを差してから、(カードで持ち上げるのではなく)容器をひっくり返して取り出してください。
生地が落ちてくるまで、待ってあげていいですから」
きめ細やかな舌触りを作るには、空気をきちんと抜くことが大事。
「ベタつく生地ですが、手粉つければ大丈夫。
思い切り叩いて、ガスを抜いてください。
思い切り叩いて半分に折る(4回繰り返し)」
台の上にこすりつけるような丸めは、生地を傷つけやすいため、別の方法で行う。
「丸めるのではなく、生地の4つ角を中央に持ってきて、張るようにしてください。
綴じ目は下に。
型に入れちゃうので、まん丸の必要はないです。
それより、なにしろ張ってること、傷つけないことが大事です」
ベンチタイムはどれぐらいとるのが良いのでしょうか?
分割のあと、「ベンチタイムクイズ」なるものが出題された。
「ベンチタイムはどれぐらいとるのが良いのでしょうか?」。
みなさんも考えてほしい。
答え。
「ご主人は夕飯作っても帰ってこないこともあるかもしれません。
でも、あなたの元へ必ず帰ってきます。
待ってあげましょう」
大事なのは、時間ではなく、生地を見てあげることなのだ。
ベンチタイム後、成形。
ここでも思い切り叩いて空気を抜く。
「右半分は右に叩く、左半分は左へ叩く。
90度まわしてもう一度。
右半分は右に叩く、左半分は左へ叩く。
生地が伸びやすいよう、グルテンの向きを意識します」
「端から1/3のところを左右とも折り返す。
ここも綿棒を縦横に動かしてしっかりガスを抜きましょう。」
「そしたら、生地をぐるぐる巻いていきます。
そうすると、グルテンの層ができるので伸びやすくなります」
成形後の生地。
これを2個詰める。
(ランチは「神田マルニ』の大西秀明シェフが作る煮込みハンバーグ。
3種類の食パンを提供。上は「キタノカオリ食パン」、右が「nichinichi食パン」左が「sonomama食パン」)
最終発酵は3時間。
いちばん上の生地のような状態になったら窯入れ(下はいきすぎ)。
220℃で余熱、200℃で焼成。
完成。
オチはこんなふうだった。
アンケートで寄せられた川島シェフのイメージの文頭をつなげると…「かわしまよしゆき」が浮かび上がった!
キタノカオリのイメージを並べ、文頭をつなげると…
きいろい
たかすいがかのう
のうこうなあじ
かおりかよい
おいしい
りっちもりーんもかのう
キタノカオリになった!
nichinichi
国産小麦、「黒川の産みたて卵」や地場野菜など地元の食材を使用、食パンなど「日日」の食卓に寄り添うパンを焼く。あんこ、カスタード、カレーなど具材は自家製。
神奈川県川崎市麻生区万福寺4-8-4
044-819-6631
9:00~19:00(パンがなくなり次第終了)
不定休
nichinichi.shop
Happycooking
プロが教えるレッスンが人気。新麦コレクションプロデュース「小麦が主役のパンレッスン」、次回は「ブーランジェ リュネット 若松大輔シェフに学ぶ 埼玉県産小麦“ハナマンテン” の魅力たっぷりなパン作り♪」
https://www.happycooking.jp/products/detail.php?product_id=1084
パンライター。パンの研究所「パンラボ」主宰。ブレッドギーク(パンおたく)。パンを食べまくり、パンを書きまくる。日々更新されるブログ・twitterでは、誌面で紹介しきれないパンの情報を掲載中。主な著者に『パンラボ』(白夜書房)、『パンの雑誌』(ガイドワークス)などがある。
【BLOG】http://panlabo.jugem.jp/
【Twitter】@ikedahiloaki