▲写真中央:片根大輔シェフ
6月26日、埼玉県蕨市の愛工舎製作所で行われた「国産小麦講習会」から、片根大輔シェフ(カタネベーカリー)の「ブリオッシュ・ナンテール」作りをレポートする。
◆「小麦畑からはじまるパン作り」に取り組む
東京の代々木上原にあるカタネベーカリー。日常的に買えるリーズナブルな価格でありながら、高品質・多品種のパンを提供している。スタッフみんなで小麦畑の見学に出かけるなど、「小麦畑からはじまるパン作り」に取り組んでいる。
国産小麦を使ったパンのレベルアップを目指して、NPO法人新麦コレクション主催で開かれたこの講習会。片根さんは北海道十勝の農家・前田農産のキタノカオリを取りあげた。
◆オートリーズを多用する理由
まずはミキシング。
「本ごねの前に、水と粉ときび砂糖だけでオートリーズを1時間くらいとります。全卵、牛乳、ルヴァンリキッド、イーストと塩は、オートリーズ後に後から入れます」
片根さんは、しっかりと水和させて、粉の甘みを引き出すためオートリーズを多用する。だが、ここでは他の意味もある。
「僕はフランスパンとかいろんなアイテムでオートリーズをとるんですけど、ブリオッシュに関しては、オートリーズをとらないとミキシングが長くなってしまうという理由があります。もうひとつ、オートリーズの間に生地を冷蔵庫に入れて冷やし、生地温度の調整に役立てます」
「低速で2分ぐらい、2速で5~6分。トータルを10とすると、バターを入れる前に約8割まで、かなりグルテンをつないじゃいます。そのあとバターを入れてしっかり10割までミキシングします。バターはあまりやわらかくしないで、生地と同じくらいの硬さで。やわらかくなるまで放置されたバターは酸化して、おいしくなくなるからです。生地に練りこむときに硬さが違うと時間がかかりすぎるという理由もあります」
▼バターを入れる前の生地。しっかりコシができた状態。
ミキシングの最後に、生地の状態を見ながら、バシナージュのように牛乳を入れる。それはキタノカオリならではの性質に関係している。
「キタノカオリは、後半どんどんつながってくるので、それをゆるめるために、最後に牛乳で硬さを調整します。キタノカオリの注意点はとにかく水がたくさん入るということ。それと、ミキシングをすればするほどつながってくること。だから、ミキシングをまったくしないか、ミキシングをするのであれば、こんなふうに生地をやわらかくしないとグルテン感が出すぎちゃいます」
生地を型に詰める方法は、狙った食感から逆算されている。
「ブリオッシュ・ナンテールは、ハサミであいだを切るやり方もあるんですが、僕は小さく切った25グラムの生地を6列12個でしっかり詰める感じにします。生地をぎゅうぎゅうにして縦に伸ばすと、パネトーネみたいに、手で引きちぎったときにふわーっと裂けておいしい。ブリオッシュ・ア・テットとは食感が全然ちがうんですよね。山食パンも、ゆるくして横に広がるより、生地をきゅっとさせて上に伸ばしたほうがおいしいと思います」
▼ブリオッシュ・ア・テットの成形。手刀で生地を割るようにして頭を作る。
▼ブリオッシュ・ナンテールの型詰め。
▼丸めた生地を6列12個で型に入れる。
90~120分間の一次発酵の後にパンチ。
「生地が弱いので、しっかり叩いて、力をつけてあげるようなイメージでやります。で、冷蔵で発酵を止めてあげて一晩おきます」
▼一次発酵を終えた生地
焼きあがったブリオッシュナンテールは、見事に縦伸びし、繊維のようにさわさわと裂けていく快楽のちぎれっぷり。小麦の持つ滋味が乳製品と合わさることで、ただの甘さではない深みが獲得されていた。他のキタノカオリと一線を画する味わいで評価が高い前田農産のキタノカオリ。前田さんの畑が持つテロワールのたまものだ。
▼写真右:前田農産の前田茂雄さん
なお、前田農産はこの秋、今年度産はるきらりの新麦を発売する。ぜひこの機会に触れてみてはいかがだろうか。
国産小麦講習会で片根シェフ、杉窪章匡シェフ(365日)、栄徳剛シェフ(ブラフベーカリー)が作ったパン。
TEXT & Photo:池田浩明
パンライター。パンの研究所「パンラボ」主宰。ブレッドギーク(パンおたく)。パンを食べまくり、パンを書きまくる。日々更新されるブログ・twitterでは、誌面で紹介しきれないパンの情報を掲載中。主な著者に『パンラボ』(白夜書房)、『パンの雑誌』(ガイドワークス)などがある。
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