ブラフベーカリー栄徳剛シェフによるエアパン教室が、東京・神田のHappy Cookingで開かれた。このパン教室では、パン生地には一切さわらない。
栄徳シェフの汲めども尽きぬ話に導かれ、頭の中で空想のパンをこねる、新時代のレッスンなのだ。
その中から今回はバゲット作りをレポートする。
使用する粉はラ・トラディション・フランセーズ。
フランスVIRON社による最高級粉。灰分は0.55。
「灰分は0.55。
灰分って粉を燃やしたときに灰になって残る部分。
タンパク質やデンプン以外のミネラル分です。
カメリヤ(日清製粉)が0.37だから、それと比べると、灰分が高くて、雑味やコクがのってきます。
粒度(粉1粒の大きさ)が粗いのがこの粉の特徴。
日本の粉とは反対に、水が入りにくいです。
粒が大きいと中心まで水が入るのに、時間かかりますよね。
水が入りきらず浮いた状態になるので、作業性が悪くなります。
そのため、オートリーズをとってちゃんと水和させたほうがいい。
同じ理由で、冷蔵で長時間、発酵をひっぱるのにも向いています。
黄色味を帯びた粉ですのでルヴァン(ヘテロ系)との相性はよくないと思います。
こういう黄色い粉って甘みが強いので、ルヴァンの酸味とぶつかっちゃう。
ホシノ酵母みたいな個性があるものも、混ざってしまってもったいないと思います」
では、イーストはどうか?
「イーストは、セミドライを使います。
インスタントでもかまわないですが、その場合注意が必要。
15℃以下の水にあてると、活性が極端に下がります。
特に夏は仕込み水の温度を下げますから、夏に商品がダメになるパン屋さんはたいていこれが原因ですね。
最初にお湯で溶かして活性をあげてから使うか、水を入れて、粉を入れて、最後にイーストをふりかけると、水にあたらないので大丈夫です。
ちなみに生イーストは良くも悪くも匂いがあり、国産小麦の繊細な香りとぶつかっちゃうので、それが嫌でインスタントを使う人も多いです。ただし地域によってはその匂いを好む傾向もあるので一概には言えませんけれどもね」
いよいよ生地をこねる。
「スパイラルミキサーで低速(L)3分。
そのあとオートリーズを15~30分。
30分置くと、ミキシング時間を短縮できます。
イーストはオートリーズ前の低速が終わった時点で入れてください。
こねあげたあとに上からふりかける。
15分後に乳化剤がなじむ、というシナリオです。
本ごねする15分前に入れると、きれいに溶けます」
「そこから低速2分、バシナージュ(こねあがった生地に水をすこしずつ入れていく。足し水)して低速1分。
速いミキシングだと水和しないのでいいパンにならない。
あとからバシナージュで水を入れるのは、水和させない浮遊水を作るためです。
油脂を入れるのと同じ効果で、グルテンを切って引きを弱くし、しっとりしたパンにします」
あとから塩を入れる、後塩法
「今回は、後塩法といって、塩もあとから入れます。
料理でも後から塩をふりますよね。
最初に入れると、均一になって味のめりはりがなくなります。
もうひとつの理由は、塩はグルテン形成の阻害物質になりますので生地のつながりが悪くなり、ミキシングに時間がかかってしまうからです。
ミキシングを短くすると、酸化が抑えられるので、風味が飛ばなくなります」
「23℃でこねあげて、30分でパンチ。
そのときすでに力があるようならパンチは、ごく軽めで行ないます。
パンチをする理由は、ここではボリュームを出すためですが、することによって引きも出てしまいます。
家庭で作るなら入れといたほうが失敗はないですけど、ボリュームが出すぎると味が薄くなってしまいます」
「さらに30分経ったら冷蔵庫へ。
5、6℃の冷蔵庫なら、イーストは0.3パーセントで、朝にちょうどよくなってます。
発酵時間は12~15時間です。
冷蔵法は糖化酵素(アミラーゼ)が働いて、でんぷんを糖分に変えてくれます。
老化が遅くなるのも、アミラーゼの効果です」
「冷蔵庫から出したら、16℃ぐらいまで復温させてください。
グルテンが回復するのが16℃以上だからです」
分割と成形。
生地の継ぎ目を上にするか下にするかでも食感に影響がある。
「底の部分ほど皮が厚くなりますよね。
ガスは上に上に行きますから、上が薄くなります。
薄くしたいほうを上にしてください」
クープは表面を若干乾かすと、きれいに入ります。
45分の最終発酵のあと、いよいよ窯に入れる。
「クープは表面を若干乾かすと、きれいに入ります。
表面一枚を乾かすように。
焼成時間は20分。
短時間で焼くほど水分は残ります。
水があるほどねちっとするし、乾いてるほうがいいと思う人もいるかもしれません。
水分が多いと、料理と合わせたとき、スープを吸わないですし。
短時間が必ずしもいいわけじゃなくて、どこを狙うかによりますね」
頭の中で、おいしいバゲットが完成しただろうか?
粉の風味を最大限に活かすために、どこまでふくらませ、どこまで歯切れ・口溶けよくパンを作れるか?
一流の職人が行うせめぎ合いに触れることはできた。
ここにはパン作りのたくさんのヒントが満ちている。
エアパン教室で作り方を披露した、ホワイトブレッド、ベーグル、バゲット。
エアパン教室ベーシック篇につづいて行われた「栄徳ラボ」では3種のマニアックな比較実験が行われた。ハルユタカブレッドでホワイトサワーを24℃で発酵させた場合と26℃の場合。ハニーグレインライブレッドでパネトーネを入れた場合と入れない場合、サワードーブレッドで本捏ねに使う粉と種に使う粉を入れ替えたら甘さや風味はどう変わるか。
TEXT & Photo:池田浩明
パンライター。パンの研究所「パンラボ」主宰。ブレッドギーク(パンおたく)。パンを食べまくり、パンを書きまくる。日々更新されるブログ・twitterでは、誌面で紹介しきれないパンの情報を掲載中。主な著者に『パンラボ』(白夜書房)、『パンの雑誌』(ガイドワークス)などがある。
【BLOG】http://panlabo.jugem.jp/
【Twitter】@ikedahiloaki