北海道江別市の江別製粉「北の小麦 未来まき研究所」で2016年7月7日に行われた「北海道産小麦講習会」。国産小麦を使ってパンを作りつづけてきた、パンデュースの米山雅彦シェフが、小麦粉のふるさとで講習会を行った。
米山さんが江別に到着してまず向かったのは産直市場だった。披露するのは、米山シェフ得意のお野菜のパンだ。今回は北海道の野菜を使って作る。
北海道産小麦「春よ恋」を選ぶ理由
全粒粉100%の生地、コンプレには「春よ恋」の石臼挽き全粒粉を使用。甘さが自慢の北海道産小麦のうち、なぜキタノカオリではなく春よ恋を選んだのか?
「全粒粉には重たいイメージがありますよね。だけど、石臼挽きでも、軽いパンができることを見てほしくて。キタノカオリだとしんどいんです。春よ恋ならこういう軽いパンができる。春よ恋はオールマイティ。表面を張りながら成形しても切れない。キタノカオリは切れる可能性がある。ただし、吸水はキタノカオリのほうが入ります」
おもしろい食感は、ミキシングに秘密がある。
「全粒粉なんですけど、春よ恋は膜が伸びやすい。生地ができあがった状態まで一度ミキシングしてから、オイルを入れます。そのほうが、ぱちんと切れるような食感になります。オイルは太白ごま油を使います。オリーブオイルでやってたんですが、上に野菜をのせることを考えて変えました。このごま油には、味・香りはなくて、旨味だけがあるんです。発酵が終わったら、0℃で一晩置いて、翌日に成形します」
コンプレの生地を使って、さまざまな野菜のガレットをバリエーション豊かに作りだす。
「野菜のガレットの成形です。コンプレの生地は50gで分割しました。とうもろこしやズッキーニ用のは丸めて、長芋用のはドック成形にします」 成形のとき、これを平べったく伸ばして、上に具材を置く。ソースを入れるものは、中央にはくぼみを作る。
それぞれの野菜の特徴を引き出す
野菜のガレットを長芋で作りだしたのは農家との出会いがきっかけだった。
「十勝の農家に行って、おみやげに長芋もらった。『じゃあ作らないと』って作りはじめました。長芋をそのまま焼いてもすごくおいしいんですけど、梅肉と合わせるイメージで、自家製のセミドライトマトを合わせています。プチトマトを半分に切って、塩ふって、オーブンでセミドライにしました。オリーブとアンチョビをフードプロセッサーでまわしてペースト状にしてソースにします。覆うぐらいシュレッドチーズをたっぷりのせて、軽くパルメザンチーズもふります」
パンデュースの野菜のパンを食べて感心するのは、それぞれの野菜の特徴を引き出す火入れを行っていること。
「根菜は下処理してからパンにのせます。葉物は生のままが多いですが、ほうれん草はゆがいてからのせます。パンは焼成するので、その分火が入ることも計算します。できあがりから逆算して、下処理する。ズッキーニの場合は、軽く塩胡椒してオーブンで5分焼きます。ズッキーニといっしょに生地にゴルゴンゾーラをちょっとずつ置いていきます」
「ゴールドラッシュ(とうもろこし)を5分蒸して側面の粒をそいでいったもの、これを生地に貼付けていきます。はじかれるので押さえてあげて。胡椒はお好みで。北海道ミックスチーズをちょびっとと軽くパルメザンチーズも」
▼ゴールドラッシュ(とうもろこし)
▼ズッキーニ
▼長芋
▼野菜のガレット、いろいろ
とってもおいしかったのは、昼食に出たネギのタルティーヌ。バゲットを切ってネギをどっさりのせる。ご家庭でも真似できそう。
「ディレクトのバゲットを6等分したものに、ベシャメルソースをのせ、その上に小さく切ったゴルゴンゾーラピカンテを、食べたとき出てくるようにちょんちょんと置いていきます。あとはベーコンものせます。ネギをたっぷりのせたら、オリーブオイルかけて、軽く塩。うちの店では、ネギがある間は作りつづけてます」
パンデュースでは、農家から直接取り寄せた野菜を使ってパンを作る。どんなに忙しくても必ず素材を見ながらレシピを変え、素材の味わいを活かそうと努力する。同じように、小麦は国産のみを使用、その品種、土地の味、作り手ならではの味を活かしたパン作りをしている。
「いちばんきれいやと思う」とハルユタカの畑で語る、米山シェフ。
「特に『国産小麦100%』とは店で謳ってないので、他の小麦を使ってもいいんですけど、なんかしっくりこなくて。北海道の農家さんと話してると、一生懸命努力してらっしゃる。作りにくい品種をあえて作ったり、もっとお金になる作物があっても小麦を作ってくれる。農家さんにもいろんな思いがあって、パン屋さんのほしいもの作ってくれている。そんな農家さんに会うと、他のものを使うのに抵抗が出てきた。国産小麦一本でいこうって思いました」
翌日、米山さんは江別周辺の小麦畑に出かけた。農家さんと、今年の作柄や作り方などについて熱心に話を聞いていた。米山さんがパン作りに打ち込むモチベーションはこんなひとときから生まれているのかもしれない。
TEXT & Photo:池田浩明
パンライター。パンの研究所「パンラボ」主宰。ブレッドギーク(パンおたく)。パンを食べまくり、パンを書きまくる。日々更新されるブログ・twitterでは、誌面で紹介しきれないパンの情報を掲載中。主な著者に『パンラボ』(白夜書房)、『パンの雑誌』(ガイドワークス)などがある。
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