パンデュース米山雅彦シェフと旅に出た。
行く先は、米山さんが名店ブランジェリーコム・シノワで修行していた頃の先輩、野島訓(さとし)さんが広島県の山の中で営むmugimugiだ。
野島さんが三次市で開いた3店舗目green mugimugiは、
モダンな建物の「道の駅」に併設。
そこで売られる、朝採れの野菜でサンドイッチを作る。
たとえば、紫蘇ときゅうりのサンドイッチは、
紫蘇という和のハーブの鮮烈な香り、
きゅうりの立てる高らかなぱりぱり音が感動ものである。
あるいは、元料理人という経歴を活かした
自家製フィリングのカレーパンには、米山さんも「おいしい」を連発していた。
mugimugiは三次市でとれた小麦100%でパンを作る。
それはこんな事情である。
コム・シノワでスーシェフを務めていた野島さんはある日、
新聞記事を見つける。
「地元産小麦でパンを作る職人求む」。
地域起こしのため自治体がパン屋を誘致するプロジェクトは
夢にあふれていたが、きてみると苦労の連続だった。
用意されていた小麦粉はパン用かさえわからないものが8種類。
ひとつひとつパンにしてみて、いちばんふくらむのを選んだけれど、
それでもようやくできたのは、
ポテトやコーンを入れた平べったいパンだった。
野島さんは言う。
「これが自分の実力かって思うんだけど、
ふくらませられないものは、ふくらませられないんだよね。
いろいろやったけど、平べったいのがいちばんおいしかった。
国産小麦も使ったことなかったのに、よくやったなあ」
小麦は農林61号というクラシックな品種から、技術改良が進み、
いまはミナミノカオリに変わってふくらみやすくはなった。
とはいえ、店に並ぶバゲットもクロワッサンもブリオッシュを、
すべてミナミノカオリから作る。
これには米山シェフも驚いたようだった。
(アイテムごとに小麦粉を使い分けるのが普通)
目の前で栽培される小麦からパンを作るのは、
数千年前にエジプトでパンが生まれてきたときと変わらない原点。
日本人が置き忘れてきた大事ななにかを、野島さんは日々実践している。なんて感動的な店なんだろう。
地元の人たちとつながり、
地元生まれの食材を使ってパンを作ることは、小麦に限らない。
県立大学の学生さん、 通称「ますけちゃん」が
ゴルビ-という品種のぶどうから見つけた野生酵母。
佐々木豆腐店のおからで作るおからドーナツ。
三輪桜というおいしいお酒の蔵元・三輪酒造の酒母から起こす
酒種で作るあんぱん。
三良坂フロマージュのリコッタチーズをのせたタルト。
地域の食材を使うことは地元にお金と友情のいい循環をもたらすとともに、私たちにとっても楽しい。
三次のテロワール(土地ならではの味)が感じられる
オンリーワンのパンは、遠くからわざわざ食べにいく価値があるのだから。
店名 | green mugimugi |
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電話番号 | 0824-44-2661 |
営業時間 | 09:00 ~ 18:00 |
定休日 | 火・水曜日 |
住所 | 広島県 三次市三良坂町三良坂2120 |
TEXT & Photo:池田浩明
パンライター。パンの研究所「パンラボ」主宰。ブレッドギーク(パンおたく)。パンを食べまくり、パンを書きまくる。日々更新されるブログ・twitterでは、誌面で紹介しきれないパンの情報を掲載中。主な著者に『パンラボ』(白夜書房)、『パンの雑誌』(ガイドワークス)などがある。
【BLOG】http://panlabo.jugem.jp/
【Twitter】@ikedahiloaki
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